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生活習慣病に隠れたこころの不調
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
食べ過ぎや運動不足など、生活習慣の乱れによって引き起こされる病気をまとめて
生活習慣病
といいます。
日本では人口の約半分が何らかの
生活習慣病
にかかっているとの説もあり、最近では中高年だけではなく、若年層での発症も多くみられます。
特に、糖尿病や高血圧、高脂血症などは継続した治療が必要であり、合併症が怖い病気だといわれているため、患者さんは不安などのストレスを感じやすい状態にあります。時には、不摂生な生活習慣を送っていた自分に対し、自己嫌悪に陥ってしまうこともあります。
さらに抑うつ状態にまで進行すると、治療への意欲が減退し、症状の悪化や合併症を引き起こすケースも見受けられます。
強い不安を感じてしまい、
生活習慣病
の治療が思うように進まないなどのこころの不調を感じたら、早めに担当医に相談しましょう。
生活習慣病
の中でも糖尿病や高血圧の患者さんは、長期にわたって治療を続ける必要があり、食事制限など日常生活での制約が多いため、こころの不調を感じやすい傾向にあります。 まずは、糖尿病と高血圧の概要についてみていきましょう。
糖尿病は「1型糖尿病」「2型糖尿病」「妊娠糖尿病」「その他の糖尿病」の大きく4つに分かれます。このうち最も高頻度で、生活習慣が発症に大きく関与しているのは「2型糖尿病」で、糖尿病患者さんの約90%を占めています。
【糖尿病(2型糖尿病)】
症 状
口渇(こうかつ)、多飲、多尿、倦怠感、体重減少 など
原 因
インスリン(※1)が不足したり働きが鈍くなったりして、ブドウ糖がうまく体内に行きわたらなくなり、血糖値(※2)が上昇して発症する。高脂肪食中心の食生活や運動不足などによる肥満が誘因となる。加齢やストレス、遺伝的体質などが関係しているとの説もある
検査と診断
空腹時血糖値、随時血糖値、ブドウ糖負荷試験(※3)を行う
治療法
食事療法と運動療法が基本となる。血糖コントロールが不十分な場合は、経口血糖降下薬(スルホニル尿素薬、速攻型インスリン分泌促進薬、αグルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン誘導体)を使用する
※1
インスリン・・・血液中のブドウ糖の濃度を下げる働きをもつ体内物質
※2
血糖値・・・血液中のブドウ糖の濃度
※3
ブドウ糖負荷試験・・・一定量のブドウ糖を溶かした液体を飲み、飲む直前と飲んでから1時間後、2時間後の計3回採血して血糖値の推移を調べる。飲む直前と2時間後の血糖値を診断基準として用いる
高血圧には、発症の原因が特定できない「本態性高血圧」と、内分泌疾患や腎臓病などの病気に付随して発症する「二次性高血圧」の大きく2つに分かれます。
このうち「本態性高血圧」は、高血圧患者さんの約90%を占めており、ストレスや生活習慣に深い関係があるといわれています。
【高血圧(本態性高血圧)】
症 状
頭痛やめまい、動悸などが挙げられるが、それらは高血圧の誘因でもあるとの説もある
原 因
原因は特定できない。高脂肪食中心の食生活や運動不足などによる肥満、およびストレスなどが誘因となる
検査と診断
血圧を数回測定する。測定値が収縮期血圧(※1)140oHgまたは拡張期血圧(※2)90oHg以上の場合、高血圧と診断される
治療法
食事療法と運動療法が基本となる。血圧のコントロールが不十分な場合は、降圧薬(カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬 など)を使用する
※1
収縮期血圧・・・心臓が収縮して血液を押し出したときの血圧で、血管に最も圧力がかかっている状態
※2
拡張期血圧・・・心臓が収縮したあと拡がるときの血圧で、血管にかかる圧力が最も低い状態
糖尿病は、食事療法や運動療法などの自己管理を必要とする病気です。適切な自己管理が行えず、罪悪感に悩まされている患者さんも少なくありません。また、放っておくと眼や腎臓、神経などの合併症につながる恐れもあり、患者さんは不安を抱えやすい傾向にあります。
不安や罪悪感などのストレスが高まると、体内でアドレナリン(※1)やコルチゾール(※2)などが分泌されて、インスリンの働きが妨げられるため、血糖値の上昇につながります。
さらに抑うつ状態を伴うと、外出が困難になって運動不足になったり、治療への意欲を失って服薬を止めたりするケースも見受けられます。その結果、糖尿病の治療に悪影響を及ぼしてしまいます。また、食欲が低下して低血糖(※3)を引き起こす恐れもあるため、早めに対処する必要があります。
抑うつ状態の有無は、質問票や問診票を用いて診断される場合もあります。
※1
アドレナリン・・・ストレスを感じると分泌される生体内情報物質。血中に放出されると血圧や血糖値を上昇させる
※2
コルチゾール・・・糖の代謝に影響し、血糖値を上げる作用をもつ生体内情報物質。ストレスを感じると分泌される
※3
低血糖・・・血糖値が必要以上に下がった状態。頭痛、吐き気、動悸などの症状がみられる。重症になると意識を失う場合もある
高血圧は、日常生活におけるあらゆるストレスと深いかかわりのある病気です。高血圧を長期間放置することで、動脈硬化のリスクが高まり、脳卒中や心疾患を合併する可能性もあるため、患者さんが強い不安を感じることもしばしば。
不安などのストレスを感じると、脳の交感神経の働きが活発になって心拍数を上昇させたり、血管を収縮させたりするため、血圧が上昇する傾向にあります。
さらに抑うつ状態になると、血圧がより不安定になり、血圧のコントロールが難しくなります。また、高血圧と抑うつ状態を併発すると、心不全を合併する危険性が高まったり、不眠などの睡眠障害を発症しやすくなったりします。睡眠障害は、血圧を上昇させたり、抑うつ状態を悪化させたりするため、症状がみられた場合には早めに医師に相談しましょう。
抑うつ状態の有無を診断するために、質問票や問診票などを用いる場合もあります。
まずは、食事療法や運動療法などを行って生活習慣全般を改善することが大切です。生活習慣が改善されれば、生活の質(QOL:Quality of Life)が向上し、こころの不調も次第に解消されるでしょう。
それでも解消されない場合は、薬物療法を行います。主に、第3世代の抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用して、脳内のセロトニン(※1)のバランスを整えます。
SSRIは、糖尿病や高血圧の治療を妨げず、血圧の管理にも効果があるといわれています。比較的副作用も少なく、安全性も高いことから、精神科や心療内科以外の医師でも処方しやすい薬剤です。心身両方での治療を担当医から受けることも可能ですが、重症度によっては専門医を紹介される場合もあります。
高血圧の治療薬である降圧薬の中には、抗うつ薬と併用すると睡眠時無呼吸症候群(※2)を引き起こす薬剤も見受けられます。自分が服薬している降圧薬について、必ず医師に報告しましょう。
※1
セロトニン・・・精神を安定させる働きをもつ脳内物質
※2
睡眠時無呼吸症候群・・・睡眠中に10秒以上呼吸が停止する病気。主に、いびきや昼間の眠気、起床時の頭痛などがあげられる
まずは、規則正しい生活習慣を心掛けましょう。また、日常生活において次のようなセルフケアを行い、
生活習慣病
の予防に役立てましょう。抑うつ状態を伴う場合は、無理をせず楽しく続けられる範囲で行うことが大切です。
◆ウォーキングなどの有酸素運動を
ウォーキングなどの有酸素運動は、ストレスや肥満を解消したり血液循環をスムーズにしたりする効果があります。準備運動をしっかりと行い、軽く汗ばむ程度で20分以上歩いてみましょう。場合によっては、血圧を上昇させたり低血糖を招いたりする恐れがあるため、医師の指導の下で適切に行うことが大切です。
◆一人で悩みを抱えこまないで
一人で悩んでいると、こころの負担が大きくなり症状の悪化につながってしまいます。まずは、信頼できる人に相談してみましょう。同じ病気をもつ患者さんの交流会などに参加し、情報交換するのもよいでしょう。
◆急激な温度変化を避けて
急激な温度の変化は、血管の収縮をもたらし血圧を上げる原因となります。家の中では、温度をなるべく一定に保ちましょう。また、暑すぎたり寒すぎたりしないよう、自分で温度調節できる服装を心掛けましょう。
◆水分補給に注意
多量の糖分を含んでいる清涼飲料水の飲みすぎは、血糖値を上昇させます。水分補給には、ミネラルウォーターなど糖分が含まれていない飲料水を心掛けましょう。
◆フットケアを心掛けて
糖尿病患者さんは足先の血液循環が悪くなり、痛みを感じにくい傾向がみられます。外傷に気付かないまま放っておくと、細菌が入って悪化する恐れがあります。日頃から足の感覚や外傷の有無をチェックし、早期発見を心掛けましょう。フットケアの専門医に相談することも大切です。
◆定期健診やこまめな血圧測定を
糖尿病や高血圧はゆっくりと進行し、自分では気付きにくい病気です。定期健診やこまめな血圧測定で、早期発見を心掛けましょう。家庭用血圧測定器は市販されており、取り扱い方も簡単です。朝晩の1日2回測定して記録し、受診の際には記録を持参しましょう。
◆バランスのよい食事を
野菜などの食物繊維を多めにし、脂質やタンパク質を控えたバランスのよい食事作りを心掛けましょう。くだものに含まれている果糖は体内に吸収されやすいため、1日当たり握りこぶし1個分にとどめましょう。
適切な治療を行うためには、ご家族や周囲の方々の協力が大切です。上手なサポートをするためのポイントは次の通りです。
◆じっくりと話をよく聞いて
自分の意見を押し付けたり質問したりせず、患者さんの話をじっくりとよく聞きましょう。回復を急がせず、患者さんがゆっくりと休養できる環境を整えましょう。
◆できるだけ病院に付き添って
抑うつ状態を伴っていると、思考力や判断力が鈍くなることも少なくありません。できるだけ病院に付き添い、患者さんの症状を医師に伝えましょう。また、処方された薬を指示どおり服薬しているか、服薬後の変化などを観察し、治療をサポートしましょう。
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